AIとマネジメント1

最近、若手の経営者の集まりに顔を出すと、『AIの発達と経営者の役割」についてよく話題になります。

このテーマは結構奥が深いので、思うところを何回かにわけて書いておきます。

まず、最適戦術探しはAIに任せ、勝てる戦略を探求すべし、という話です。

通常、マーケティングについて論じられる際には、ビジネス全体の設計図を描く戦略論の部分と、戦略を現実にするための戦術論(営業術、交渉術、生産性効率化術などなど)の部分が区別されずに議論されている場合がよくあります。

もちろん境界線の融解という流れはマーケティング論にも押し寄せており、この戦略論と戦術論も簡単に切り分けられなくなってきているろですが、ここではあえて誤解を恐れずにいえば、これからのマネジメントは戦術論をAIに任せ、浮いたエネルギーを戦略論の探求に注ぎ込まなくてはなりません。

あなたが、Googleを使って調べ物をしたとき、あなたが目にする広告は、私が目にする広告と同じではありません。Googleはあなたのこれまでの検索履歴やネットの閲覧履歴を踏まえて、あなたが最も興味を持ちそうな広告を表示しているのです。(ジョージオーウェルの『1984』が描いた未来の話ではありません。)

これは企業の側からみれば、
我が社の商品に興味をもってくれるのはきっとこういう人だろう、とあれこれ戦術を考えてやみくもに広告を出す必要がないという事です。

このようなゴール(例えはこの商品を効率よくユーザーにアピールする)があると決まっている場合にそこへ辿り着くための最適な手段を見つけ出すという土俵では、人間はもはやAIに勝てません。

しかし、AIにゴールを設定してあげることは人間にしかできません。

どんなコンセプトでどんな価値をユーザーに提供するのかを決めるのは人間です。つまりビジネスモデル構築です。

わかりやすい例をあげましょう。

富士フィルムという会社があります。
かつてこの会社は銀塩式フィルムの製造販売分野において市場で大きなシェアを占める会社でした。

ところが、デジタルカメラとそれを搭載した携帯電話の出現によって、カメラフィルムのマーケットは瞬く間に縮小しました。

富士フィルムと世界シェアを奪い合っていたコダックは遂に法的破綻処理に至ったほどです。

しかし、富士フィルムは生き残りました。

カメラフィルム製造において培った技術を活かして、電子部品・電子材料などの分野に進出することで活路をひらいたのです。

自社がもっているリソース(資源)は何か、それによってどんな価値を世の中に提供できるのかを考え抜いた結果、ビジネスモデルの転換を図ること、これはAIには不可能です。

もう1つ、アメリカにキンバリークラーク社という日用紙製品メーカーの例を出しましょう。紙オムツ『ハギーズ』を売っている会社です。

1991年当時紙オムツ業界ではP&Gのパンパースのシェアが頭一つ抜けていました。

キンバリークラーク社はこの状況で起死回生の一撃を放ちます。

それが『プルアップス』というオムツとパンツの中間の商品の発売です。
母親は子どもが1日でも早くオムツから卒業してほしいと願っているというニーズに対して、少しでも早くオムツから卒業できるためのステップという価値を提供したこの商品は空前のヒットを記録します。

より質の高い紙オムツを発売するのではなく、
トレーニングパンツという新しいマーケットをつくることで年間売上を10億ドル増やしたのです。

このような、新しい価値の提供というゴール設定は、(今のところ、おそらく21世紀中は)AIには不可能であり、まさにマネジメントが人として責任をもってやり遂げなければいけない仕事なのです。

こうしたビジネスモデル構築などの企業戦略の重要性は、大企業においてはかなり浸透してきましたが、中小企業においてはまだまだほとんど意識されていないのが現状だと認識しています。

うちのクライアントでも、経営が苦しくなって相談にこられた段階ではどんなに営業などの戦術面を頑張っても戦略的に厳しいために行き詰まり状態にあるのにもかかわらず、社長本人がそのことに気づいていないということはよくあります。

もちろん会社の状態によっては、応急処置的に私が戦略立案することもありますが、戦略立案は経営者本人がやらなければ魂が入りません。ですので、私のコンサルティングの方向としてはビジネスモデルの勉強会や、カウンセリングを通じてクライアント企業が自分自身の手で戦略立案をできるようにお手伝いするようにしています。

ビジネスモデル構築のポイントは見える化、可視化なのですが、最初はなかなか自社のビジネスモデルを可視化することさえ難しいクライアントも、慣れてくると徐々に自分のビジネスモデルを書き出し、自分で戦略の立案することができるようになります。

AI時代だからこそ、戦術の優位さが減少し、戦略構築で勝てる事業をつくることが重要になってくるのです。
これができる企業とそうでない企業でその格差はますます広がるでしょう。

中小企業のビジネスモデル構築の具体的な手法については、書き出すとそれだけで本を何冊もかけるテーマです。ポイントはアイデアの質と、可視化ですが、それはまた別の機会に書きたいと思います。

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