AIとマネジメントの話の続きです。
AIとビジネスモデルを巡る議論の中で見落とされがちな視点として、
AIによって恩恵を蒙るのはサービス提供者側だけではない、
という点があります。
消費者が自己のニーズに対して最適なサービスを選ぶ場面でAIを利用することで、
消費者は今よりもずっと経済合理的な判断をすることができるでしょう。
既に電化製品を全国の小売の中で最安値で買えるところを探してきてくれる価格コムなどのサービスや、
同じ観光地の中から最安値の旅行パックを検索できるトラベル子ちゃんなどのサービスは多くの人が利用しています。
このような消費者側からのAI活用による消費行動の合理化が図られた場合、
サービス提供側はこれまでと同じようなマーケティングをしていたのでは生き残れないでしょう。
昨今、行動心理学の知見をマーケティングに活かして、我々の不合理行動を前提としたマーケティング構築が注目されていますが、
AIが消費行動の補助として活用されれば、このようなある種の心理的錯覚を利用したマーケティングは難しくなるかもしれません。
また、たとえば一回も利用しなくても月の会費が引き落とされ続けるスポーツジムや、
全てのチケットを使い切らないことを前提とした英会話教室のチケット前売りシステムなども
AIによって消費者心理の経済的合理性が図られるようになると成り立たなくなりそうです。
長らくマーケティング界では、
『何を売るかではなく、どう売るかだ』
というセールス中心主義の時代が続いてきましたが、
消費者サイドがより合理的な判断が可能となれば、最終的には
その商品の付加価値と対価が釣り合っているか
の判断に収斂されていくことになります。
その意味では、マーケティング的発想を商品デザインに取り込んでいくという考え方はこれからますます加速していくでしょう。
(商品開発におけるマーケティングデザイン思考という発想に関してほとんどの中小企業は絶望的な遅れをとっているように感じます。デザイン思考と聞いて全くピンとこない方は参考文献にあげた佐藤オオキ氏の著作に目を通してみてください。)
AIが消費行動を変え、そのことが商品とマーケティング手法の境界線はますます融けていくのです。
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