起業してから、どんどん仲間を増やしていってすぐに事務所スペースが狭くなって広いところに移転したために、
僕は組織拡大論者だと思われているのですが、全く違います。
企業の存在意義を原始モデル的に考えてみると、
「組織化による取引費用の削減」という側面と、
「チーム化によるブースト効果」があるといえるでしょう。
まず、組織化による取引費用の削減という側面についてみていきましょう。
例えば、あなたの会社に法務部があるとします。
あなたの会社に関わる法務関係全般を司っています。契約書の作成、就業規則の改訂、債権回収、特許申請など、多数の仕事がありますが、これを全て外注するとどうなるでしょうか。
それぞれの仕事を法律事務所、社労士事務所、特許事務所などに外注していくこともできないことはないでしょう。
この場合、外注コストは、法務部を維持していくことのコストを上回ると思います。
なぜなら、最初から法務部のある会社なんていうのは基本的にあり得なくて、スポットで外注しつつ、こんなに年間コストかかるなら法務担当社員雇おうというところから法務部というのはスタートするからです。
もちろん年間コストというのはお金だけではありません、コミニケーション費用を頭に入れることが重要です。
自社の一部門にあれば、何か頼む時に、書類を付箋をつけて渡せばいいだけのものが、外注するとなると打ち合わせして値段交渉して、納期管理してと、数値化されないコミニケーションコストがかさみます。
つまり、目に見えるコストと目に見えないコストの総和としての外注コストを削減するために外注業務を内製化するわけです。
外注のままにしておくか、組織を大きくして組織内でその業務を行うか、というのは結局両者のコストの天秤にかけることになります。コースの定理ですね。
そうすると、組織の大きさはどれぐらいが適切か、という問いへの解答は、その事業にかかる業務のそれぞれの外注コストによる、つまりケースバイケースだということになります。
ただし、昔と違って、今はメールがあり、チャットがあり、スマホがあります。ある仕事をワンフロア下の他部署に頼むのと、外注先の会社の担当者に頼むので、コミニケーションコストの差というのはほとんどなくなってきています。
そうすると今度は一度内製化して、自社社員として雇用した場合の組織改編コストの方が大きくなってくるかもしれません。
技術の進歩によるコミニケーションコストを含む取引費用の逓減によって最適な組織規模というのはどんどん小さくなっていくことは間違いないでしょう。
(たとえば1955年に株式時価総額世界一だったゼネラルモータース(GM)の当時の従業員数は約62万人でしたが、現在Apple社の従業員は約12万人しかいません。
この問題はGAFAの市場独占問題の一側面として捉えられることが多いですが、本質的にはコミニケーションコスト全体の逓減による副次的効果の問題といえるでしょう。)
次に、チーム化によるブースト効果という点についてみていきます。
たとえ外部とのコミニケーションコストがほとんどゼロになったとしても、それだけで組織化の意義が全く失われるわけではありません。
原始経済モデル的に考えるだけでは、一人一人が単体で外注しあって働く、という場合と、組織化してチームとして働くというのでは、そこで働く個々人の成長速度という側面を見落としてしまいます。
どんなすごい人材も初めからトッププレイヤーだったわけではありません、ダイヤの原石が同じくダイヤの原石と切磋琢磨する間に磨かれ輝き出すのです。
google社は、プロジェクト・アリストテレスとして、チームが最高の生産性をあげるためには何が必要かを研究し、その結果としてチーム内の心理的安全性が重要だと結論づけました。
(非常に興味深い研究なので、マネジメント層は是非調べてみてください。
https://wakus.jp/project-aristotle)
心理的安定性とは、要するに、自分はこのチームの一員として働くに値する人間だとみんなに認められてる自尊心をもって安心して働けることが大事ということです。
みんなは、自分のこといらないと思ってるんじゃないだろうかと思ったらバリバリ働けないですよね。これを外注連合チームと組織化されたチームで考えた場合、チームワークによって生産性が高まりやすいのはやはり組織化されたチームでしょう。
「全体は、部分の総和に勝る」
というアリストテレスの名言は現代においても生きています。
組織の最適規模を考えるときは、チームワークを発揮するのに最適規模はどれぐらいかを考える必要があり、それはお互いがお互いを思いやりながら切磋琢磨できる規模感ということになるでしょう。
僕は、50人までがせいぜいで100人では少し多いのではないかと思っています。
ただし、上に述べた話はどちらもあくまでも組織をどこまで拡大するべきかについてであって、仲間づくりの話ではありません。
事業における仲間づくりというのは、雪だるま式にどんどん拡大してくのが理想です。
この雪だるま式というのがポイントで、自社内やその家族を固めて芯をつくる、その周りに社外の一緒に仕事をする人たち、仕事を紹介してくれる人たち、そのまた家族、友人、知人と、どんどん転がしながら雪だるまを大きくしていきます。
もちろん永遠に大きくなるということはありません。3歳児がつくる雪だるまと小6の子がつくる雪だるまの大きさは全然違います。
あなた自身の器の大きさ、そしてあなたを支えてくれる周りの人達の成長度合いに比例して雪だるまの大きさの限界は変わります。ですから、安心してどんどん雪だるまを大きくしていってください。
何度も書いていますが、山より大きな猪は出ません。自戒を込めて。