先日、中小企業診断士さん向けに事業承継のセミナーをさせてもらったんですが、
その中で、
「M&Aを出口とするのか、相続を出口とするのかで、会計上のビジョンは全く変わってくるんだから、その辺をよくシェアできる税理士さん、会計士さんと仕事をしてください」という話をしました。
事業承継の場面では、法律と会計と税務とゴーイングコンサーンが一体となって目標に突き進む必要があります。
とはいえ、僕らのような弁護士出身でコンサルティング業務もやってる人間は、結構帳簿みたりするのが苦手な人が多くて
若手の先生からは、
会計についてどこまで勉強したらいいですか、という質問をよく受けます。
どこまでかと言われたら、どこまでも勉強しておいた方がいいのだけれど、
とりあえず
「利益は意見、キャッシュは事実」
と言われて、ああなるほど
となりますか、という質問をします。
このレベルの話ですらクエッションが出るようだと、流石に基礎的な勉強しましょう。という話になります。
「利益は意見、キャッシュは事実」というのは、期末にキャッシュがいくら残ってるかというのは事後に動かしようがないんだけれど、その期に利益がいくら残ったというのは何とでもなりますよ、という話です。
例えばソフトウェア開発なんかでは、
SEの人件費を研究開発費として費用計上すれば利益が圧縮されますが、棚卸資産として資産計上することもできます。
売上に関しても、どの時点を基準にするかの調整でその場凌ぎの数字をつくることができる場合もあります。
なので、帳簿みるときに利益はいくらか、ということに目を奪われるよりも、入ってきたキャッシュがどう動いて出て行っているのかを確認していくほうが会計実態がつかめるというのはよくあることです。
とはいえ、数字の意味を1つ1つ紐解いていくというのはそれなりに面倒くさい作業です。
この種の混乱してる議論というのはかなり色んな場面でみられて、
少し話は飛びますが、
日本の一人当たりの生産性が低い
という話をよく聞きます。
日本はGDP総額三位なのに、一人当たりのGDPでいくと18位になってしまう。これは生産性18位の国民がたくさん集まって総額では3位になっているだけなのだ。一人当たりの生産性をあげれば、GDP総額はもっと押し上げられる、という議論です。
一見正しそうにみえるのですが、よく考えるとかなり疑問で
そもそもGDPの計算上、企業の内部留保や海外投資は算入されません。
これは企業の政策的に内部留保や海外投資が行われるのであって、個人の生産性とは無関係です。
そうすると、本当に各国国民の生産性を計るのであれば、
企業の内部留保や海外投資が労働者への給与に回された場合(それによる個人消費の増加)を想定してGDPを計算しなければいけません。(それはもはやGDPではないですが。)
これをすればおそらく日本人の生産性は18位ということはあり得ない。
もちろん、さらなる生産性向上を目指さなくていいという話ではないですが。
色んな数字をしっかり理解しましょう、という話でした。
稲盛和夫の実学―経営と会計
566円
Amazon
|
ファイナンス思考 日本企業を蝕む病と、再生の戦略論
1,944円
Amazon
|